トランス脂肪酸が低減されているマーガリンは安心なのか?と言えば、そんなことはあり得ません!
「記号で考えることはやめましょう!」
先日、あるお客様から次のような質問をいただきました。
近くのパン屋さんがポップで『バターよりもトランス脂肪酸が少ないマーガリンを使っています!』と表示していました。これは食べても大丈夫なんですよね!
いいえ、ダメですよ!
当然ですが、私はそう言ったのですが、どうやらこのお客様は「トランス脂肪酸」を記号で見ていたようです。おそらく、多くの方が同じカン違いをされていると気づきましたので、トランス脂肪酸が少ないマーガリンについてご紹介します。
トランス脂肪酸とは?
トランス脂肪酸は脂肪酸のひとつです。また、多くの種類があります。さらに、トランス脂肪酸の摂取で心臓疾患や動脈硬化、肥満、アレルギー疾患へのリスクが増加する可能性が強く指摘されています。
WHO(世界保健機関)は、「トランス脂肪酸の摂取量はエネルギー比の1%未満」にするように勧告していますが、日本人の大多数がそれ以下であることから国による規制はありません。一方で、企業レベルでは対応が徐々に進んでおり、食品中のトランス脂肪酸含有量は減少傾向になります。
ただし、一部製品では未だに10%を超えるものもあるので注意が必要です。
トランス脂肪酸の化学構造
脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。下図のように、構造上に二重結合(不飽和)をひとつ以上もつ脂肪酸を不飽和脂肪酸と呼びます。一方で、二重結合がない脂肪酸を飽和脂肪酸と呼びます。
次に、不飽和脂肪酸は二重結合を構成する炭素に結び付いている「水素」の向きで、トランス型とシス型の2種類に分類されます。
下図のように、水素の結びつきが同じ方向である(右)ものをシス型、逆方向(左)になっているものをトランス型と呼びます。天然の不飽和脂肪酸の多くはシス型です。
天然と工業由来のトランス脂肪酸
天然のトランス脂肪酸は反芻(はんすう)動物(牛や羊など)の胃で生成されます。そのため、バターなどの乳製品や肉の中にトランス脂肪酸が含まれます。
反芻(はんすう)とは、一度飲み込んだ食べ物を再び□の中に戻して、再咀嚼(さいそしゃく)することを指します。最大の特徹は四つの胃をもつことで、トランス脂肪酸の生成と関わるのはルーメンと呼ばれる第一胃です。
この胃は成牛で150~250リットルにもなる容積があり、ここにさまざまな微生物が生息しています。この微生物は繊維質を分解する酵素を持っており、牛自身が消化できない繊維質が微生物により分解されます。
人間や犬の大腸にも細菌などの微生物が存在しており、食物中の繊維質の5%程度は分解されます。一方で、ルーメンをもつ牛に至っては、50~80%も分解されると言われています。この微生物の働きで天然のトランス脂肪酸が生成するようです。
工業由来のトランス脂肪酸
サラダ油などの食用植物油を製造する際、脱臭のために200℃以上の高温で処理されます。この時、シス型不飽和脂肪酸が異性化してトランス脂肪酸が生成します。
また、マーガリンなどは部分水素添加が行われます。この処理でシス型不飽和脂肪酸の一部が高融点の飽和脂肪酸に変わり、液体だった油が固形の脂のように形を維持できるようになります。この部分水素添加時に多くの種類のトランス脂肪酸が生成します。
トランス脂肪酸の種類とは?
ここはややこしいので、数字に弱い人は流し読みしてください。理解してほしいのは、トランス脂肪酸には多くの異性体が存在するという事実です。
まず、二重結合にはシス型とトランス型のふたつがありますが、二重結合がすべてシス型の不飽和脂肪酸はひとつしかありません。
例えば、以下は二重結合がひとつのオレイン酸ですが、同じ炭素数で同じ位置にトランス型の二重結合をもつものはひとつだけで、これはエライジン酸と呼ばれます。
では、必須脂肪酸で二重結合をふたつもつリノール酸(オメガ6)の場合はどうなるのか?
単純な話、リノール酸がトランス型に異性化するパターンは次の3つがあります。
・①のみトランス型に変換
・②のみトランス型に変換
・①と②の両方がトランス型に変換
このことから、炭素数が同じで二重結合が複数個あるケースでは次のような数の異性化トランス生成することになります。
念のため、二重結合が3つあるα-リノレン酸で再度確認しておきましょう。
2.②のみトランス型に変換
3.③のみトランス型に変換
4.①と②がトランス型に変換
5.①と③がトランス型に変換
6.②と③がトランス型に変換
7.①②③のすべてがトランス型に変換
上記の式「2n個 – 1」からα-リノレン酸は二重結合3個ですから、2×2×2-1=7個の異性化トランスが存在することになります。
二重結合が多ければ多いほど異性化率が高くなる!
トランス脂肪酸の生成で重要なポイントは、二重結合が多ければ多いほど異性化率が急上昇することです。例えば、α-リノレン酸はリノール酸よりも異性化率(トランス脂肪酸生成率)が13~14倍も高くなります。
大豆油は7%がα-リノレン酸です。これが高温で脱臭処理された時、7つもの異性化トランスを生じています。また、販売されている大豆油にこのトランス脂肪酸が含まれることになります。一般に、外食産業で使われる食用油の多くは安価な大豆油のようです。その意味で、以下の外食チェーン店の食用油の使い方など、私には理解できません。
以上のことから、「トランス脂肪酸の生成」という点に絞れば、大豆油よりコーン油のほうが安心ということになります。α-リノレン酸が全体の1%にすぎません。
また、サフラワー油はさらに安心ということになります。
では、さらに念のためにアラキドン酸も確認しておきましょう。アラキドン酸には以下のように4つの二重結合があります。
「2n個 – 1」より、2×2×2×2-1=15もの異性化トランスが生成することになります。α-リノレン酸がリノール酸の13~14倍も異性化率が高いのですから、アラキドン酸はいったいどれくらいになるのか?想像もできません。その意味で、以下の唐揚げ専用油は超危険であることが容易に想像できます。
天然と工業由来のトランス脂肪酸の違いとは?
トランス脂肪酸には多くの種類があることがご理解いただけたと思いますが、天然と工業由来のトランス脂肪酸の脂肪酸組成には特徴があります。
天然のトランス脂肪酸は以下のようなバクセン酸が多く含まれます。例えば、乳脂肪中のトランス脂肪酸のヤギは37%、ヒツジは47%、牛は30~50%がバクセン酸です。
一方で、工業由来の硬化油中のトランス脂肪酸では、おおよそ20~30%がエライジン酸である一方で、バクセン酸は10~20%程度です。また、乳脂肪中のエライジン酸はヤギが6%、ヒツジが5%、牛が5~10%程度です。
このように、一口にトランス脂肪酸と呼んでいますが、天然由来と工業由来では含まれるトランス脂肪酸の種類に大きな違いがあります。ただし、天然だから安全なのか?という問いに対する明確な答えは出ていません。
トランス脂肪酸を減らしたマーガリンとは?
部分水素添加とは融点を利用した便利な技術です。
例えば、同じ炭素数が18の脂肪酸ですが、二重結合の数の違いで融点は大きく違ってきます。
・C18:1 オレイン酸 13.4℃
・Ç18:2 リノール酸 -5℃
・Ç18:3 α-リノレン酸 -11℃
一方で、同じ炭素数18のトランス型のバクセン酸やエライジン酸の融点はそれぞれ44℃,47℃で,オレイン酸よりも二重結合が多いにトランス型に異性化されると融点は高くなります。それも、飽和脂肪酸であるステアリン酸の融点に近くなります。
これが、常温で液体の植物油が固形を保ちつつも、パンなどに塗りつぶすことができる理由です。では、トランス脂肪酸を減らしたマーガリンはどのような形で作られているのでしょうか?
パーム油のブレンド!
植物油に水素添加してマーガリンを作っていた。トランス脂肪酸が少ないマーガリンは、紅花油などにパーム油をブレンドして硬さを調節したものだと考えていいでしょう。
上記のHPで、このマーガリンについては次のような説明があります。
「小岩井芳醇ヨーグルトと熟成チーズで仕上げた、ヘルシーでありながら、香り高く、深い味わいの香料不使用のマーガリンです。オレイン酸60%(脂肪酸中)含有。」
前述したように、オレイン酸の融点は13.4℃です。紅花油にはオレイン酸が78%含まれますが、このマーガリンはその60%がオレイン酸であるようです。したがって、固形にするには飽和脂肪酸を混ぜる必要があります。公式HPには食用精製加工油脂としか書いてありませんが、おそらくパーム油でしょう。
トランス脂肪酸は10g中、わずか0.034gです。
こちらはトランス脂肪酸は10g中0.05gです。
公式HPでは紅花油とパーム油を使用していると書かれていました。
パーム油に対する専門家の指摘とは?
パーム油については、専門家たちは次のような指摘をしていますのでご紹介します。
「ネズミの飼料に菜種油、ラード、パーム油をそれぞれ6%混ぜた場合、パーム油混入飼料グループの生存率が最も悪く、本来は24ヶ月生きることができるのに、15ヶ月で半分以上のネズミが死んだという論文(Suzuki H,Mech Ageing Dev,60:267,1991)も発表されています。
脂肪酸の組成には特記すべき問題がないため現時点では詳細は不明ですが、パーム油には健康を害する何らかの危険物質が混入している可能性も否定できません。」そのサラダ油が脳と体を壊している(山嶋哲盛著 ダイナミックセラーズ出版)より引用
「2017年には、EUの食品安全機関(FFSA)もパーム油の健康リスクをあらためて警告しています。ヨーロッパの食品産業でもパーム油が広く利用されていますが、FFSAは、パーム油の製造時に200℃を超える高温で精製すると、他の植物油よりも多くの発がん物質が発生することを特に主張しています。」トランス脂肪酸から子どもを守る(山田豊文著 共栄書房)より引用
「パーム油も異常な発がん促進作用を示します。図23 パーム油はラットの大腸癌の発癌を以上に促進する(Narisawa Tら、Jpn J Cancer Res 1991;82: 1089-96)
パーム油はリノール酸顔料が多くないので、これらの作用は、パーム油に含まれる微量成分の作用であると推測されます。
また、脳卒中のラットの寿命短縮作用などが認められており、内分泌かく乱作用もあります。パーム油は食用油としては不適と思われます。」本当は危ない植物油(奥山治美著 角川oneテーマ21)より引用
「パーム油のブランテーションでは先進国が使用禁止としている農薬を使っていること、高温加熱することでトランス脂肪酸やヒドロキシノネナールが発生することの危険性が考えられます。酸化防止剤として添加されているBHA(ブチルヒドロキシアニソール)という化学物質には、発がん性の心配もあります。」
なぜ「油」をかえると長生きできるのか(藤田絋一郎著 三笠書房)より引用
まとめ
トランス脂肪酸を減らしたマーガリン。そこには、パーム油が使われています。
上記のような専門家の指摘をどのように判断するのか?それは個々人の問題ですが、私は仕事柄お客様から次のような話をよくいただきます。
「息子は、パーム油が入ったものを食べるとひどくネガティブになります。昨日まであれほど明るく楽しそうに学校に通っていたのに、パーム油が入ったものを食べると2~3日人が変わったように落ち込み、『学校を辞めたい!』、『勉強しても意味がない!』など、私だけでなく主人も『とても同じ人間とは思えない!』と口にするほど人格が変わってしまいます。鈴木先生から『パーム油の影響はおおよそ2泊3日だよ!』と聞かされていなかったら、これが原因だと気づかなかったと思います。油って怖いですね。」
「高校生の娘は、以前はパーム油をとるとひどく落ち込んで学校に行けなくなっていました。幸い、10日間チャレンジを続けていたらどんどん性格が前向きになり積極性がでてきました。また、以前とは見違えるほど明るくなりました。1年以上、どんどん良い方向に娘は変わってきて嬉しいです。すると、パーム油をとったときの反応が変わりました。
以前は明らかな気持ちの落ち込みが見られたのですが、このところパーム油をとると睡眠時間が異様に伸びることに気づきました。先日、パーム油の入ったあるお菓子を食べてしまったときなど、夕飯前に寝てしまい次の日の朝7時まで12時間以上、ゆすっても大きな声で起こそうとしてもまったく反応がなくて…。そのまま目覚めなかったらどうしようか?と、焦りました。」
専門家の方々が指摘しているように、食用油にはまだまだ未知の物質もあるようです。また、パーム油の弊害もどのような形で現れるのか?それも正確にはわかっていません。
しかし、ここでご紹介したような性格の変化や睡眠に問題があったのなら、その前に食べたものを疑ってみましょう。もちろん、そこにパーム油とあればその可能性もありますし、植物油脂と書いてあればサラダ油が原因のケースもあります。
マーガリンやショートニング、ファットスプレッドなどトランス脂肪酸が入っていたのなら、それはなお更です。ぜひ、「何かあったらその前に食べていたものを疑う!」これを習慣づけることをお勧めします。
食用油は、それほど人の性格や人格、脳の働きに大きな影響を与えます。
トランス脂肪酸を減らしたマーガリンには、このパーム油が使われていることを承知してください。