起立性調節障害や不眠症で光治療より栄養療法が重要である理由とは?
「夜中に目が覚める」
「早朝に目が覚めてしまう」
そういった不眠症を抱える人は、大人の2~3割に上るようです。その一方で、起立性調節障害のように、朝まったく起きれないのに夕方以降はどんどん元気になり、なかなか寝ようとしない人もいます。
このような睡眠障害の人は高齢になるほど増えますが、夜遅くまでスマホなどを手放せない若者でも少なくありません。
そんな睡眠障害について、よく「光で対策」といった情報を見かけますのでご紹介しましょう。
眠れないことが不安!
不眠症の多くは、眠れないことが不安になることだと言われています。これを「不眠心配性」と呼ぶそうですが、眠れないことへの不安が交感神経を刺激して寝付けなくなる。と、されています。
そのため、「寝る前にはリラックスすることが大切!」といった指摘がなされますが、ほとんどの人はこの当たり前のアドバイスに対し、具体的な行動をしていないようです。
リラックスとは緊張をほぐすこと!
人は不安を感じるとき交感神経が緊張します。このとき、必ず体が緊張しています。したがって、リラックスするにはこの体の緊張をほぐす必要があります。
緊張をほぐす方法はたくさんあります。例えば「深呼吸」がそのひとつで、呼吸のコントロールは自律神経と直接アクセスできます。だからこそ、ヨガや太極拳、座禅などが健康法として多くの人が取り入れてきました。
そこまで本格的にやらずとも、深呼吸なら誰でもできます。大きく息を吸い、鼻から15秒くらい時間をかけてゆっくり息を吐き出す。これを数回繰り返せば、ずいぶんリラックスできるはずです。
また、体が緊張しているわけですから、寝る1~2時間前にラジオ体操などもお勧めです。その上で、風呂で半身浴をすればなおのこと体の緊張はほぐれるでしょう。
なお、私が先日ご紹介したアイソメトリック運動とストレッチはお勧めです。後述しますが、適切な栄養を摂りながらこの運動をすれば、睡眠の質は〝やったその日″から確実に上がることでしょう。
うつや糖尿病のリスク!
睡眠障害は、決して眠りだけの問題ではありません。例えば、不眠症が続くとうつ病や糖尿病、高血圧、高コレステロール血症などの発症リスクが高まることが明らかになっています。
ですが、これも自律神経の働きから考えれば当然でしょう。
「眠れない」ことへの不安は交感神経の緊張を招きます。このとき、肌表面の細い動脈が収縮することになりますから、血圧は上がることになります。また、これが続けば手足など末梢の血流は妨げられ続けることになります。
さらに、あまり注目されていませんが、交感神経が緊張すれば胃腸への血流もまた妨げられます。これが胃もたれや胃痛、腹痛、下痢、軟便など、さまざまな胃腸の不調を招くことは自然なこと。
重要なのは、そのサインにはやく気づくことです。
血流が妨げられた組織は、必ずその働きが悪くなります。その理由もカンタンで、組織の細胞は血液中の酸素や栄養を取り込みエネルギーを作り出しています。届く血液量が減れば、エネルギー不足になるからこそ動きが悪くなります。
肌で血流不足が続けば、当然ですが肌が乾燥したり荒れたりします。また、寒くなればさらに肌表面の血流は悪化します。すると、細胞はそれを防ぐためにサイトカインを分泌して血流を増やします。それが肌のカユミとなります。
胃腸も同じです。例えば、「むせる」とか「ゲップ」、「シャックリ」といったことは見過ごされがちですが、これは胃腸が動けなくなっているサインのひとつ。起立性調節障害や発達障害、不登校の子どもたちは、その状況が悪化する前にこういったサインが続くケースがほとんどです。
体から発せられるSOSに耳を傾けてあげましょう。
脳の不調に光で対策!
東京での調査では、11~12月の太陽の光が届く日射量はもっとも多い5月の約半分になるそうです。そしてこの光の不足は「体内時計」に影響を与えるため、冬になると心身の不調が生じやすいとされています。
例えば、冬になって睡眠時間が多くなっているのに昼間に眠気が続いたり、集中力ややる気が出ず憂鬱な気分になったりする症状です。
専門家が指摘する冬の季節性うつは本当か?
通常のうつ状態は食欲が減りますが、冬の季節性うつ病のケースは甘いものや炭水化物をやたらと食べたくなる傾向があるとされています。そのため、これらの不調が秋から冬にかけて出て、春に治るならあてはまる可能性が高いそうです。
ですが、先のように冬になれば寒さにより体は緊張します。つまり、交感神経が緊張して肩や首もコリます。したがって、脳への血流も減りますから、脳も十分なエネルギーをつくれなくなります。
このとき眠気やあくびが増えるでしょうし、ストレスのために偽の食欲が出ることは自然なことでしょう。ストレス食いというやつです。また、脳がてっとりばやくエネルギーをつくれる「糖質」を要求することも自然なことだと私は考えます。
光が決めて!という根拠とは?
光は目に入ると網膜にある神経節細胞を通り、脳の視交叉上核という場所にある体内時計を調節している。そして、目から入った光が扁桃体や海馬にも影響を与えます。
そういったことから、睡眠障害やうつ病、認知機能を正常化させるために光を使った治療があります。また、光目覚まし時計といったグッズも売られています。
専門家によると、この「光療法」はうつ病や睡眠障害の治療で効果が認められたそうです。また、目から入った朝日は視交叉上核に直接働きかけ、体内時計をリセットするため、毎朝同じ時間に起きてなるべく早いタイミングで朝日を浴びることが大切だと指摘しています。
夜の光も…
照明器具についても専門家は次のような指摘をしています。
昼光色や昼白色などの白く明るい光を遅い時間まで浴び続けると、体内時計が夜型にずれる。その対策として、冬は就寝1~2時間前から暖色系の電球色の照明を使うとよい。
こういった工夫で、副交感神経の働きが優位となり、寝つきや睡眠の質が向上するそうです。
が、私は経験上、こういった指摘にすごい違和感を覚え続けていました。というのも、私はこういった考え方とはまったく違ったアプローチにより、お客様の睡眠の問題が改善していくのを目の当たりにしてきたからです。
そして、2017年のノーベル医学・生理学賞で、私の考えの方が正しかったと確信できましたのでご紹介します。
体内時計の分子メカニズムを解明
朝になると目が覚め、夜になると眠くなる。このとき、眠気だけでなく体温や血圧など、私たちの体の状態も24時間周期で変動しています。こういった体に起きるリズムを「概日リズム」と呼びます。
生物は「体内」に時計をもっている!
「体内時計」は、人に限らず動物や植物全般がもっており、これは18世紀に次のような実験で明らかにされています。
つまり、オジギソウは光に反応して葉を開閉していたのではなく、体内に24時間周期のリズムをつくりだす仕組み(体内時計)をもっていたことになります。
それ以降、オジギソウに限らず、ヒトを含めたさまざまな動植物に体内時計があることが明らかになりました。
ノーベル賞受賞の研究とは?
2017年にノーベル賞受賞した研究で明らかにされたのは、体内時計に遺伝子が関わっていたという発見です。また、それにはタンパク質が関わっていました。具体的には次のような形です。
このPERタンパク質が、他の遺伝子やたんぱく質に働きかけて概日リズムが生まれている。
昼から夜にかけ、PERタンパク質が細胞内に増える。夜から昼にかけ、PERタンパク質は自然に分解され減少していく。この繰り返しによりPERタンパク質は調整され、それが核の中にあるperiod遺伝子に作用することで24時間のリズムが調整されています。
しかし、タンパク質は一般に遺伝子のある核、その外で作られるためその作用がわかっていませんでした。(ここは理解しなくても大丈夫)
それが1994年、二つ目の時計遺伝子「taimeless」(タイムレス)が発見されたことで解決しました。taimeless遺伝子からできる「TIMタンパク質」が、PERタンパク質と核の外で結合し、核の内部につれこむことが明らかになりました。
さらに、その後「doubletaime」(ダブルタイム)という遺伝子が発見され、この遺伝子からできる「DBTタンパク質」は、PERタンパク質が細胞内に蓄積するのを遅くする働きがあることが発見されました。
そして現在では、太陽の光にもとづいてPERタンパク質の濃度を調整するタンパク質など、数多くのタンパク質がみつかっています。
以上のことから、睡眠の質に問題がある方は「適切な栄養の摂取」を最優先させるべきだと私は考えます。
まとめ
ノーベル賞を受賞した研究で、体内時計に関わるタンパク質の存在が明らかになりました。
概日リズムは、PERタンパク質が増減するリズムによって調整されていることが明らかになりました。また、さまざまなたんぱく質がPERタンパク質の濃度の調整に関わっていることもご紹介した通りです。
つまり、太陽の光でPERタンパク質を調整するタンパク質は、その中のひとつにすぎません。ならば、光治療だけで問題解決ができるはずもありません。
ただし、光治療がまったく効果がないというわけでもありません。しかし、私は再三指摘していますが、ほとんどの人は「低栄養」です。とくに起立性調節障害などでは、胃腸症状を訴えることでも容易に想像できますが「低栄養」が顕著です。
※ 詳しくは「標準偏差からわかる見逃せない事実とは?」をお読みください。なお、パスワードはメルマガをお申込みいただくと返信メールに記載されております。
ならば、PERタンパク質も含め、必要なタンパク質が十分につくられていない可能性が高いことは容易に想像できます。なぜなら、タンパク質の合成には、ビタミンやミネラルなどさまざまな栄養素が必要だからです。
したがって、光治療は有効な手段のひとつですが、それ以前に「栄養状態の改善!」を優先させることが重要になります。
また、ここではご紹介していませんが、適切な脂質の摂り方も重要なポイントとなります。さらに、スマホやパソコンの画面から出るブルーライトは、可視光線の中でも紫外線に近い光です。これは、とても大きなエネルギーをもつ光ですからできるだけ避けるに越したことはありません。
とくに起立性調節障害などでお悩みなら、せめて寝る前のスマホは避けましょう。