生理不順など、生理に問題を抱えていると不妊や早産リスクが高いことをご存じですか?
「コロナ禍以降、些細なことでうつっぽくなっていました。また、生理前症候群がひどく、生理前は主人に対して理性的な対応ができません。」
ある30代前半の女性からこのような相談をいただきました。そして、この時私がこの女性に告げたのは次の言葉です。
「お子さんできなくて悩んでいませんか…?生理前症候群やうつと、不妊は関連するんですよ…」
想像した通り、結婚5年となる彼女は子宝を望んだものの妊娠せず、3年以上不妊治療に通っていました。そんな彼女が医師から告げられていたのは次の点です。
1.胚の質が悪い
2.黄体期が短い
※ ご主人の精子の運動率が極端に悪い
早産をリスクを高めるのは…?
生理痛や生理不順、生理前症候群でお悩みの女性は少なくないでしょう。そんな女性に、まずは再確認いただきたいのが早産のリスクです。(以下の記事参照)
・「早産は、単に体が小さいだけでなく、出生児は大きなリスクがあることをご存じですか?」
繰り返しお伝えしていますが、早産児は単に体が小さく生まれてくるわけではありません。
児の脳や視覚機能は満期出産まで成長を続けています。一方で、早産児は、その機能が十分に発達せずに生まれることになります。
生理痛や生理不順、生理前症候群の症状がひどければひどいほど、早産のリスクが高くなる理由は次の通りです。
メタボリック症候群、心臓代謝性疾患、多くの癌などを含む、加齢および食事に関連する非感染性疾患の発症は、循環性炎症サイトカインの持続的な濃度上昇を特徴とする軽度の炎症と関連している。
・食事由来 AGEs は炎症を増悪させる外的要因である 伊藤 里恵, 楠本 真広, 他 2023年 30 巻 1 号 54-67 より引用
では、炎症サイトカインが過剰に産生される理由はどこにあるのでしょうか?
陣痛促進(出産を促す)のキッカケは…
出産時の女性は陣痛が促進されます。これにより出産の準備が整うわけですが、それをを促すのが炎症性サイトカイン(エイコサノイド)です。
アラキドン酸代謝経路により産生される炎症性エイコサノイドは子宮頸管熟化や子宮収縮を誘導して分娩進行を司る中心的因子である。早産の背景原因は多岐にわたるが、最終的にはそれらの炎症性エイコサノイドの異常な活性化による妊娠維持機構の破綻が生じて分娩となる。
・子宮の炎症制御における脂質メディエーターの役割 ―オメガ3脂肪酸を中心に 永松 健 2022年 31 巻 1 号 30-35 より引用
炎症性サイトカインの分泌量が増え、それにより子宮収縮と陣痛が促進され分娩となります。
これが正常に行われれば満期出産となり、それ以前に妊婦の体で炎症性サイトカインの分泌量が増えると早産となります。
では、炎症性サイトカインはどこからやってくるのでしょうか?
炎症性プロスタグランジン(PG)の中で PGE2 やPGF 2αは分娩進行に関わる中心的な脂質メディエーターであり、人工的に分娩を誘導する処置である分娩誘発では、頸管熟化および子宮収縮の促進を目的として、炎症性 PGの投与が行われる。これらの炎症性 PG はオメガ 6PUFAs であるアラキドン酸を起点とした代謝経路により産生され、アラキドン酸カスケードと称される。
・子宮の炎症制御における脂質メディエーターの役割 ―オメガ3脂肪酸を中心に 永松 健 2022年 31 巻 1 号 30-35 より引用
炎症性サイトカイン(上記論文では炎症性プロスタグランジン:炎症性PG)はオメガ6脂肪酸から代謝されて産生されます。
これを理解していただいた上で、生理の問題を再確認してください。
炎症性サイトカインと生理不順!
生理痛や生理不順、生理前症候群と炎症性サイトカインの関係を確認しておきましょう。
ここでのポイントは、炎症性サイトカイン(PGF₂α)の分泌が〝子宮収縮″と〝陣痛″を促す点です。
生理痛
オメガ6脂肪酸であるアラキドン酸から生じる炎症性サイトカインには「炎症を促す」「血を固める」という作用を持ちます。
炎症を促すことにより子宮収縮を促進するわけですが、炎症性サイトカインの過剰分泌は生理時の子宮収縮も過剰に促すことになります。つまり、出産時の陣痛で想像できるように、炎症性サイトカインの過剰分泌は痛みを生じることになります。これが生理時の痛みです。
次に、生理痛がひどい女性ほど、経血の色が黒味を帯びるとともに血の塊が生じます。
これは、炎症性サイトカインによる「血を固める」作用によります。
私たちは擦り傷が生じるとカサブタができます。傷口で血が固まり黒味を帯びますよね。
同じように、子宮内膜で強い炎症が生じると子宮との接着面が〝あたかもカサブタ″のような状態となります。
ここで、傷口のカサブタを無理矢理はがすことを想像してみてください。
生理時、女性の子宮内では同じようなことが起き、強い痛みが生じるとともに経血は固まり黒味を帯びるのです。
生理不順
「早産は、単に体が小さいだけでなく、出生児は大きなリスクがあることをご存じですか?」 でも指摘しましたが、炎症性サイトカインの過剰分泌はプロゲステロンの分泌を妨げ黄体期を短縮させます。
念のために付け加えますが、黄体期は高温期であり基礎体温が 排卵後に上昇し、生理が始まるまでの期間です。また、高温期はプロゲステロンの分泌量が増えることで維持され、これにより子宮内膜が厚く保たれて着床に適した環境が整います。つまり、十分な高温期が保証されることが妊娠には欠かせません。
私がいただく相談/カウンセリングでも、不妊に悩む女性のほとんどが黄体期(高温期)が短い、もしくはありません。そしてそこには、炎症性サイトカインの過剰分泌があり、その原因はオメガ6過剰摂取の食生活にあります。
以上のことから、生理不順の原因もお分かりいただけたことでしょう。
生理前症候群
冒頭の女性は、「コロナ禍でうつっぽくなり、生理前のイライラや落ち込みもひどくなった」というお話でした。ので、まずは〝うつ″について紹介します。
身体疾患のないうつ病患者において炎症性サイトカインの上昇が繰り返し報告されていることや,炎
症反応を亢進させるインターフェロンの投与によってうつ病が発症しうること等から,うつ病の病態メカニズムの一つとして慢性炎症が考えられるようになった。
・オメガ3系脂肪酸の抗炎症作用と抗うつ効果(総説) 西 大輔 2018年 29 巻 4 号 177-181 より引用
ということで、この女性には当然ですが「10日間チャレンジ」を続けていただいています。
現在、はじめておおよそ4ヶ月になりますが、次のようなお話をいただいています。
「生理前の理性が戻ってきました。笑
4ヶ月目の生理時はまったく痛みもなく、基礎体温も今まで無かった高温期がハッキリ10日以上続きました。不妊治療に3年以上通ってもダメだったので、を続けるのが嬉しく思えるようになりました。
来月、主人は念のために精子の検査に行くと言っています。こちらも結果が楽しみです。」
ここで生理前症候群の話ですが、ここでも生理時に炎症性サイトカインが過剰分泌されています。そして、これを自律神経の働きに置き換えると、生理前に情緒が混乱(イライラや落ち込みがひどくなる)する原因がよく分かります。
単純に、体内で炎症が強くなればなるほど、自律神経のひとつである交感神経の働きも過剰となります。
交感神経とは、闘争と逃走の神経でもあります。
また、闘争とは怒り・イライラであり、逃走は不安・恐怖でもあります。
事実、交感神経が働けば働くほどアドレナリン(不安・恐怖)やノルアドレナリン(怒り・イライラ)の分泌量が増えます。
ならば、炎症性サイトカインの分泌量が増え、交感神経が過剰に働いている生理時、怒りやイライラ、不安、恐怖で情緒が混乱すること。この女性が口にしたように「理性が無くなる!」のは自然なことだと思いませんか?
まとめ
生理痛や生理不順、生理前症候群など、生理に係わる問題のほとんどは炎症性サイトカインの過剰分泌が原因です。また、食生活によるオメガ6過剰摂取が炎症性サイトカイン過剰分泌を促しています。
そしてこれらが、不妊や早産、流産など、妊娠に係わる問題に深く関わっています。
子どもの食の嗜好性は、幼少期から過ごす家庭の食性が大きな影響を与えることは事実です。したがって、子どもの不妊や早産、流産の原因の多くはじいちゃん・ばあちゃんにもありますし、私たち大人が原因です。
お子さんや孫が生理痛や生理不順、生理前症候群、不妊などでお悩みの方に、「本当の妊活!」が一助となれば幸いです。