ノーベル生理学・医学賞を受賞した坂口教授の発見は、不妊で悩むご夫婦に重要ですよ。
ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった大阪大学・坂口教授。
坂口教授が見つけた制御性T細胞は、以下の通りさまざまな病気の治療に繋がると期待されていますが…
実は、不妊で悩むご夫婦にとり、〝とても″〝とても″重要な発見です。
【「制御性T細胞」初の治験、2026年から米国で】
ノーベル賞・坂口志文氏が設立のレグセルhttps://t.co/90iOLtJiEu1型糖尿病や関節リウマチの治療につながると期待されています。がん治療にも応用できる見込みです。 pic.twitter.com/L45R1WTv1U
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) October 9, 2025
制御性T細胞の発見から、どのような治療薬の開発が期待されているのか?
日本経済新聞の記事にある通り、制御性T細胞の発見により、免疫が自分の体を攻撃する自己免疫疾患の治療薬の開発が期待されています。
自己免疫疾患とは?
細菌やウイルス、腫瘍などの異物を排除し、病気や感染から体を守る役割を持つ免疫の働きです。
その免疫が、本来の働きをせずに自分の体の一部を間違えて異物と認識して攻撃してしまい、様々な症状を引き起こしてしまう病気が自己免疫疾患です。
食物アレルギーと自己免疫疾患の共通点とは?
食物アレルギーは,本来は身体にとって無害であるはずの食品に対して「免疫」が過剰に働き,身体にさまざまな症状を引き起こします。
食物アレルギーは「外部の異物(食物)」に対して過剰に反応するのに対し、自己免疫疾患は「自身の体」を攻撃するという点が異なりますが、どちらも免疫の異常が原因で起こる病気という共通点があります。
なぜ、異物である食物を免疫が攻撃しないのか?
異物を排除し、体を守るのが免疫です。しかし、食物という異物を(健康なヒトの)免疫は攻撃しません。それは何故でしょうか?
実は、そのカギを握っているのが制御性T細胞です。
制御性T細胞と免疫寛容
私たちは食事を摂ることで健康を維持しています。なので、当然のことですが免疫が食物を受け入れてくれなければ困ります。そして、体にはそんなシステムが備わっており、それは免疫寛容と名付けられています。
免疫システムが体内の異物に対し、排除するのではなく受け入れること(寛容)を免疫寛容といいます。
腸内の免疫系はユニークで,摂取した食物や常在する腸内細菌など,本来異物であるものを排除しない免疫寛容という免疫抑制作用が働いている.
免疫寛容で重要な役割を担うのが制御性 T 細胞であり,異物の排除機能を持つエフェクター T 細胞の働きを抑え,食物アレルギーや炎症の原因となる過剰な免疫応答が起こらないように調節している.
・制御性T細胞の発生を制御する腸内細菌代謝産物 早川 盛禎 2014年 50 巻 8 号 815 より引用
簡単に言えば、制御性T細胞は軍隊における指揮官のようなもの。異物の排除機能を持つT細胞(炎症性T細胞)に「それは攻撃しなくていいよ!」と、指令を与えています。
ただし、この指揮官は軍隊における大将のような絶対的な権力者ではありません。各小隊の指揮官的な役割をします。よって、体が十分な数の小隊長(制御性T細胞)を揃えることができるかどうか?が重要となります。
・制御性T細胞:小隊長「兵士をなだめる(攻撃しなくていいよ!)働き」
・異物の排除機能を持つT細胞:兵士(小隊長がいないと暴走する)
どうしたら制御性T細胞が増えるのか?
簡単に言えば、異物の排除機能を持つT細胞は兵士です。しかし、この兵士(炎症性T細胞)は小隊長(制御性T細胞)がいれば指揮に従いますが、いないと暴走します。したがって、体は十分な数の小隊長を用意しないと正常な免疫寛容は成り立ちません。
そこで重要となるのが腸内細菌です。
最近の研究において,腸内に常在するクロストリジウム目の細菌が制御性 T 細胞の発生に不可欠なことが示された.さらに,Furusawaらと Arpaiaらの2つの研究グループにより,新たに制御性 T 細胞の発生は腸内細菌の代謝産物である酪酸により制御されることが明らかとなったので紹介する.
酪酸は,腸内細菌による食物繊維の嫌気発酵過程で生成される短鎖脂肪酸である.Furusawaらは,無菌化飼育で腸内細菌のいない状態のマウスにクロストリジウム目を含む細菌を定着させ,高繊維飼料を与えた場合,低繊維飼料群に比べて大腸の制御性 T 細胞が増加することに着目した.
次いで,高繊維飼料群の盲腸の代謝産物を解析し,酪酸が増加していることを突き止めた.
一方Arpaia らは,腸内細菌のいるマウスと,無菌化飼育や抗生物質で腸内細菌のいない状態としたマウスの糞便成分の T 細胞への影響を比較し,腸内細菌のいるマウスの糞便中から,制御性 T 細胞の発生を促進する物質として酪酸を見いだした.
続いて彼らは,抗原刺激を受けたことがないナイーブ T 細胞を用いた in vitro 分化誘導系により,T 細胞分化に対する酪酸の作用を調べた.
その結果,酪酸は制御性T 細胞の発生のみを促進し,他のT 細胞の発生には影響しないことが分かった.(中略)
制御性 T 細胞の発生に対する酪酸の促進的効果は,マウスへの酪酸投与実験でも認められた.大腸の制御性 T 細胞は,酪酸化デンプン飼料または酪酸含有水を与えた場合や,大腸に酪酸を直接注入した場合に増加した.
さらにFurusawa らにより,炎症性腸疾患に対する治療薬としての酪酸の可能性も示唆された.
成熟した T細胞や B 細胞が存在しない Rag1欠損マウスに正常マウスのナイーブ T 細胞を移入すると,移入細胞から分化したエフェクター T 細胞の作用により慢性腸炎を発症する.
この慢性腸炎モデルマウスに,酪酸化デンプン飼料を与えたところ,移入細胞からの制御性 T細胞の発生が大腸で促進され,腸炎症状の改善も認められた.
彼らの研究成果は,酪酸による制御性 T 細胞の発生制御機構を明らかにしただけでなく,免疫寛容の異常が原因と考えられる炎症性腸疾患などの治療への酪酸の応用を期待させるものである
・制御性T細胞の発生を制御する腸内細菌代謝産物 早川 盛禎 2014年 50 巻 8 号 815 より引用
簡単にまとめると、
食物繊維を十分に摂る → 大腸内で酪酸が増える → 酪酸が増えれば増えるほど制御性T細胞が増える
と、なります。
妊娠と制御性T細胞
妊娠において制御性T細胞の働きは重要です。そもそも、母にとって受精卵は半自己(卵子:自己 精子:非自己)です。そのため、妊娠維持には十分な数の制御性T細胞が子宮内に配置されている必要があります。
逆に、小隊長が不足すると…
ヒトならびにマウスの流産や、ヒトでの妊娠高血圧腎症では末梢血ならびに、妊娠子宮での制御性T細胞の減少が報告されている。
・制御性T細胞、制御性NK細胞からみた妊娠維持機構 齋藤 滋 2011年 39 巻 S2-5 より引用
制御性T細胞の数が十分でないと流産など、妊娠維持が困難となるわけです。
まとめ
充分な量の食物繊維を摂る。
これが制御性T細胞の増加に繋がる。
それが妊娠維持に必要なことがお分かりいただけたことでしょう。
ですが、腸内に酪酸を産生する腸内細菌が少なければどうでしょうか?
いくら食物繊維を摂っても、酪酸産生菌が少なければ十分な量の酪酸産生は困難となります。
また、以下の通り、ほとんどの日本人は妊娠の妨げとなる食生活を続けています。
・早産は、単に体が小さいだけでなく、出生児は大きなリスクがあることをご存じですか?
・生理不順など、生理に問題を抱えていると不妊や早産リスクが高いことをご存じですか?
したがって、単に食物繊維を摂っても不妊を克服することなどできません。
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