ツナ缶はオメガ3補給源として失格だった! – サバ缶などを備蓄してね。
以前、文科省の脂肪酸成分表編 第2章 第1表を基にマグロやカツオの脂肪酸組成を調べ、お勧めツナ缶ランキングをご紹介しました。
・DHAやEPAは青魚以外ではマグロやカツオなどの大型魚に豊富。ツナ缶お勧めランキング!
ご覧の通り、カツオがもっとも多く、DHAとEPAの含有量から考えると私的にはキハダマグロは「却下!」となります。したがって、カツオもしくはビンナガマグロの「水煮」ツナ缶がお勧めです。
脂肪酸成分表編 第2章 第1表によると、上図のようにビンナガマグロ100gはDHA+EPAを0.55g含むとあります。なので「1日3缶食べれば十分な健康効果が望めるはず…」だと想定していましたが、以下のツナ缶(ビンナガマグロ)調査の結果わずか0.14g/100gだったそうです。
したがって、ツナ水煮缶で充分な健康効果を望むなら、少なくとも毎日10缶以上食べる必要があります。ということで、以下の論文タイトルの通り、市販ツナ缶はオメガ3補給源としては失格ですね。
・市販ツナ缶は有用なオメガ3系脂肪酸源にはならない 原馬 明子, 脇中 奈津子,他 2017 年 26 巻 2 号 p. 217-224
(前略)魚介類には私達にとって欠かせない n-3 系脂肪酸が含まれているため,魚食離れは改善されるべき問題である。
厚生労働省は,1999 年「第 6 次改定日本人の栄養所要量」によって,食事から摂取
する n-6 系脂肪酸と n-3 系脂肪酸の比が 4:1 となることを推奨 していたが,n-6 系脂肪酸は植物油をはじめ,肉や乳製品などに多く含まれるため,現代の日本人は食の欧米化に伴い,意識しなくても過剰に摂取している可能性が高い。
今日の食生活の乱れによって生じる n-6/n-3 の上昇やバランスの乱れが,中枢神経系の機能を低下させ,若者のキレ易さや自殺・うつ,母親の育児放棄,虐待など精神的な問題に繋がる原因の 1 つとも考えられている 。
n-3 系脂肪酸を十分量摂取し健康な毎日を送るためには,魚食離れの対策に努める必要がある。(中略)
魚缶詰は,手軽に入手・長期保存が可能であること,骨まで食べられ子どもにも人気が高く,種類も豊富であることから,家庭で使用しやすい魚食材となる可能性が高い。
しかし,魚素材の捕獲時期,場所,さらには保存状況,加工時期により脂肪酸組成の変動が予想されることや,魚缶詰には保存するために植物油が添加されており,n-6 系脂肪酸を多く含むことで n-6/n-3 が大きく異なることも予想されるため,現状を検証する必要がある。
本研究では,市場で汎用されている各種魚缶詰の中でもツナ缶の比較を目的として,ネットサイトを用いて市場調査を行い,「家庭での使用頻度が高い」と思われるツナ缶を選出して脂肪酸分析し,EPA や DHA,n-6/n-3 を中心にツナ缶の特徴を調べた。
また,添加油によって n-6/n-3 はどのくらい違いがあるのかを算出し,今後,ツナ缶を購入する際の注意点を検討した。(中略)
3 つのサイト(amazon,楽天,価格 .com)からツナ缶の売れ筋 100 品を挙げ,魚
種と添加油を調べた。その結果から水煮缶 3 種類,油漬け缶 6 種類,合計 9 種類を選出した。
水煮は,本マグロ,キハダマグロ,ビンナガマグロを,油漬けは大豆油で漬けた本マグロ,キハダマグロ,ビンナガマグロの 3 魚種と,さらに,ビンナガマグロでは,綿実油,オリーブ油,紅花油の 3 種類の油脂でそれぞれ漬けた缶を選出した。(中略)
結果
水煮缶では魚種による大きな違いは無く,n-6/n-3 は全て 1 以下で EPA+DHA 量は
約 0.1 g/100 g であった(Table 1)。
油漬け缶(大豆油)の可食部では,ビンナガマグロの総脂肪酸量が少なく,EPA+DHA 量はビンナガマグロ>本マグロ≧キハダマグロの順であった(Table 2)。
n-6/n-3 はビンナガマグロ<本マグロ<キハダマグロの順に低い値を示し,推奨値 4 以下はビンナガマグロのみであった。また,油液部で 0.02〜 0.06 g/100 g とわずかではあるが EPA,DHA が検出され,可食部由来のものが流れ出ていた。
水煮と油漬けの比較では,水煮の EPA+DHA 量の約 0.1 g/100 g に対して,油漬けは 0.2 〜 0.3 g/100 g と水煮より多かった。しかし,n-6/n-3 は本マグロ,キハダマグロでは 6 〜 7 と推奨値 4 よりも高値であった。
油漬けの添加油別での比較は,魚種をビンナガマグロに揃え比較したが,EPA+DHA 量は 0.2 〜 0.8 g/100 g と綿実油>オリーブ油>大豆油>紅花油の順で高い値を示したが,全て同魚種ビンナガマグロであるにも関わらず,EPA+DHA 量にバラツキが見られた。
n-6/n-3 は大豆油で低値,綿実油で高値,オリーブ油,紅花油は一価不飽和脂肪酸が高値など,添加油の脂肪酸に n-6/n-3 は大きく影響された(Table 3)。
考察
厚生労働省は,「日本人の食事摂取基準(2015 年度版)」で, α – リノレン酸や
EPA, DHA の摂取目標量の設定は控えたが ,第 6 改定日本人の栄養所要量では,n-6 系脂肪酸と n-3 系脂肪酸の比が 4 以下 ,「日本人の食事摂取基準(2010 年度版)」では n-3 系脂肪酸である DHA 及び EPA を 1.0 g/ 日以上摂取することを推奨していた。
今回,n-6/n-3 と魚缶詰を食することで得られる EPA,DHA 量を参考にして各ツナ
缶の特徴を比較した。水煮缶の n-6/n-3 は全て約 1 以下であったが(Table 1),100 gあたりの DHA+EPA 量は約 0.1 g と推奨値の 1/10 であるため,1 日に 100 g の魚缶を10 缶分食べる必要がある。
水煮缶は n-6/n-3 バランスの点では優れているものの,ツナ缶だけでは,EPA や DHA の摂取は不十分であると考えられた。
油漬け缶(大豆油)の魚種比較では,ビンナガマグロの n-6/n-3 は推奨比率で ある 4 よりも低値であった(Table 2)。また,ビンナガマグロは 100 g あたりの
DHA+EPA 量が高値であったことからも,EPA,DHA の摂取に有効な素材と考えら
れる。
しかし,油漬け缶であっても 100 g あたりの EPA+DHA 量は 3 種類とも,約
0.2 〜 0.3 g しか含まれないため,1 日におよそ 3 〜 5 缶食べる必要がある。
油漬け缶の添加油の比較では,可食部に油脂の脂肪酸が多く浸潤しており(Table 3),また,100 g あたりの DHA+EPA 量では 0.2 〜 0.8 g とバラツキがあることから,メーカーの加工処理に大きく影響することが分かった。
綿実油漬けは DHA+EPA 量が約 0.8g/100 g と高かったが,油脂の影響を避けるために油液を切ってもリノール酸が多く含まれ n-6/n-3 も高値を示し,あまり推奨できない食材と判断された。
しかし,オリーブ油漬けや紅花油漬けにはオレイン酸が多く含まれるため,n-6/n-3 の上昇は抑えられていた。紅花油漬けは油液を切ることで,n-6/n-3 は 4 以下を示したが,DHA+EPA量は約 0.3 g/100 g と低く,油液を切ることで n-6/n-3 は改善されるが EPA,DHA 量は十分とは言えなかった。
これらのことから,1 日に 1 缶以上食べる必要はあるが,オリーブ油漬けだけが推奨量 1.0 g/ 日に達することが可能で n-6/n-3 も良好であった。さらに,オリーブ油漬けの油液部も n-6/n-3 推奨比率以下のため,油液に流れ出たEPA,DHA をより多く摂取するために油液をそのまま使用して良いと考えられた。
今回の結果から,ツナ缶は添加油によって n-6/n-3 が異なることや,油液を切る必
要があること,また,EPA,DHA 量が低く,魚食としての食材には不十分であると判断された。
この論文のポイントは以下の部分です。